山岳の父小暮理太郎が東上州から夕焼けの空に眺め、その美しさに憧れ、こよなく愛した奥秩父の山々をシリーズの終わりに紹介して参りたい。
地理的には四方を山に囲まれた甲斐の国山梨県の北東部、埼玉県との県境の辺りで、その一番左寄り太田から57キロに飛龍山(2077メートル)が望める。戦前、日本海軍の四式重爆撃機、海軍の航空母艦にその名のある「飛龍」いかにもスケールの大きい山で、山頂の南にある文明年間鎮座といわれる飛龍権現が山名の由来である。秩父側か
らは大洞川の源頭にあることから大洞山と呼んでいる。付近一帯は平成になってからも「オオカミは生きているとして」新聞紙上を賑わしたことがある。日本武尊の東征の際、白い狼が現れて道案内をしたという伝説があり、麓の里には狼の坐像のお札を貼る風習がある。今にも狼の遠吠えが
聞こえてきそうな伝説を秘めた深山である。 |
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